バッハ「シャコンヌ」を聴く2021/05/20 21:47:02

土曜日に行った、竹澤恭子のヴァイオリンと福田進一のギターを聴きに行くの感想文の続きを書くことにする。前半の、パガニーニ「チェントーネ・ディ・ソナタ」第1番、ギターソロでソルの「魔笛の主題による変奏曲」、シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」についてはすでにリンク先で書いた通りだ。

後半は、竹澤恭子のソロで、バッハ無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番ニ短調より「シャコンヌ」を聴いた。

このシャコンヌは、小学生の高学年のことからよく聞いていた。こましゃくれたガキである。私が親から買ってもらったレコードのことをどこかで書いたことがある。「世界の名曲」という24巻組の全集があり、そのなかから「バッハII」、「リスト」、「ショパン」、「シューベルト」、「その他」の5巻をもっていた。1巻あたり2枚のLPがあった。バッハIの2枚組のレコードの1枚めには、管弦楽組曲第2番とブランデンブルク協奏曲第5番があり、2枚目にはオルガン曲がA面に、無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番がB面に入っていた。無伴奏ヴァイオリンの演奏者はたしかグリュミオーだったはずだ。レコードだから、シャコンヌだけ取り出して聞くということはせず、ひたすらアルマンドから聞いていた。だから今でも、シャコンヌだけ取りだして演奏されるのは、違和感が残る。

この第2番全部を実演で聞いたことは、まだないはずだ。シャコンヌだけなら、日本の女性ヴァイオリニストの演奏で聴いたことを覚えている。たしか、前橋汀子だったと思う。そこは立派なコンサートホールではなく、ある企業の保養所みたいなところの落成式で聴いたのだと思う。

なかなか竹澤恭子の演奏にたどりつかないが、それもいいのではないか。演奏は非常によかったので、それ以上書きようがないのだ。どこがよかったは、あとで楽譜を出して示そうと思う。

世間一般のクラシックファンはこの曲を無伴奏ヴァイオリンの曲だと思っているだろうし、それは正しい認識だが、私の知る一部の環境では、このバッハのオリジナルの無伴奏ヴァイオリンではなく、フェルッチョ・ブゾーニのピアノ編曲版で聴くのが普通のようなのだ。私自身はそんな環境におかれてはいないはずなのだが、ひょっとしたら、確かに実演で聴いたのはヴァイオリンのそれが2回だけなのに対し、編曲版のピアノは2回以上聴いたような気がする。

少し前に、楽譜を出してといった。ではまず、バッハのシャコンヌの冒頭をお見せしよう。無伴奏ヴァイオリンや無伴奏チェロを聴くときの問題は、楽譜で書かれた和音が同時に鳴らず、かつ弓で弾いている以外の音の減衰が速いことである。おそらく聴き手は、この楽譜のように聴くことを前提として作曲しているのだろうが、そこまでを聴き手に求めることは酷であろう。少なくとも、私にはできない。それでも、竹澤恭子の気迫を目の当たりにして、このような音楽を奏でようとする意思が、私には伝わってきた。

バッハ:シャコンヌ冒頭

シャコンヌは第1のクライマックスのあと、穏やかな長調に転ずるが、再度ニ短調に転じ、新たなクライマックスを迎える。それが下記の楽譜の部分だ。擦弦楽器に固有の、開放弦と非開放弦を交互に弾くバリオラージュによって、緊張感が高まっている。ここまでもっていく竹澤の腕はさすがだと思った。

バッハ:シャコンヌ・バリオラージュ部

ピアノ編曲=トランスクリプションとして有名なブゾーニによるシャコンヌは、バリオラージュに相当する箇所について、ossia として同音打鍵の刻みを徐々に細かくする手法を開発している。ブゾーニの技には感嘆するが、少なくともここに関してはヴァイオリン原曲にはかなわないだろう。

バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ・バリオラージュ対応部

なお、シャコンヌのバリオラージュについては、下記が参考になる。 http://jymid.music.coocan.jp/kaisetu/ciaccona.htm