フォーレの「ピアノとオーケストラのための幻想曲」を調べる(5)2020/06/12 23:00:00

今回は練習記号4、52小節から調べる。冒頭に戻り、ピアノはソロで第1主題を奏で、オーケストラは再度沈黙する。ただし、多少冒頭よりは近道し、すぐにオーケストラはあくびの旋律を2度鳴らす。
フォーレ「ピアノとオーケストラのための幻想曲」第58小節
58小節からピアノは15小節のA'の旋律を弾きだすのだが、前と違うのは、1つは調が違うこと、そしてもう1つはリズムの浮遊感を弱めるとともに装飾が付加されていることだ。ピアノのあと打ちはいくつか拍打ちに改められ、高音部にメロディーのエコーがかぶせられている。
フォーレ「ピアノとオーケストラのための幻想曲」第58小節(草稿)
ただし、当初はこのようなことは考えられていなかった。上記の草稿譜面を見ると、左手はあと打ちを堅持し、右手も装飾は控えめであった。出版譜のように音を加えることになったのは、音楽学者のオーリッジによればピアニストであるコルトーの進言によるものであるという。わたしはこの出版譜への書き直しの是非を論じる勇気がないが、フォーレがこのピアノ協奏曲的作品を完成するために投じた「気張り」を感じる。