羽生九段の振り飛車について考える2022/05/09 23:59:59

将棋のプロの羽生善治九段が、 2021 年度の順位戦でA級から降級した。2022年度 はB級1組で戦うことになる。絶対的な王者と思われていた羽生も、力が衰えることがあるのかと思った。いや、力が衰えたのではなく、周りが一層強くなっていったということがあるのかもしれない。

さて、あるブログを見ていたら、羽生は基本的に居飛車党だが、これから振り飛車を指せば勝てるようになるのではないかという意見があった。その当否は私にはわからないが、羽生は振り飛車(*も*)うまい。羽生の振り飛車を見てみたい気がする。

もとは居飛車党で、のちに振飛車に転向した第一人者といえば大山康晴第十五世名人が思い浮かぶ。私が将棋を覚えたのがおよそ 40 年以上前で、当時は中原誠が名人だった。そのころ大山はすでに振り飛車しか指さなかったにもかかわらず、「表芸が矢倉、裏芸が振り飛車」と言われていた。裏芸でそこそこ、というよりかなり勝っていたから、表芸を採用したらどれほど凄いことになるのか、子供心ながら怖い気がした。

さて、羽生は四段デビュー当時からまれに飛車を振っていた。私が覚えている羽生の振り飛車は、1996 年 5 月 20 日から 21 日にかけて戦われた名人戦での後手四間飛車である。先手の森内は引き角から飛車先を突破しようとした。後手の羽生は43の銀が浮いているのをとがめている。羽生はこの順にあえて飛び込んだ。これが私には驚異だった。さらに、羽生は敵陣に作った龍を引きつけ、粘った。この発想が私にはわかなかった。龍をひきつける少し前に指した、36手めの35歩には感嘆した。当時週刊将棋を読んでいて、この手を恐ろしいと思ったことがいまだに忘れられない。

この将棋の羽生は負けてしまったが、負けてなお羽生は強いと思った。