演奏中の咳を思い出す2020/09/11 23:00:00

突然、1990 年前半に聴きに行った演奏会を思い出した。ヴァイオリンとピアノの演奏会で、ヴァイオリンは若手から中堅の日本の名手、ピアノはベテランの日本の演奏者だった。プログラムの最後は、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番、いわゆるクロイツェルだった。最終楽章で乗りのいい、あのテーマが始まって間もなく、ピアニストが咳をしだした。ピアニストの咳は拍子におかまいなく、独立したリズムで、あたかもポアソン分布のように、放たれ続けた。しかしピアニストの奏でる音は一定のテンポで進んでいくのだった。

演奏が終わって、このコンサートに連れて行ってくれた方は「このヴァイオリニストは、つくづくピアニストに恵まれていないよね」と嘆いた。ほかにもこのヴァイオリニストには不運なことがあったのだろうか。