フォーレの「ピアノとオーケストラのための幻想曲」を調べる(10)2020/06/19 23:00:00

今回は練習記号9、145小節から調べる。最初に注意しておくが、この練習記号 9 は Kalmus 版では一つ前の144小節に振られている。これはフォーレの初稿の譜面でもそうなっている。しかしフレーズとしては 145 小節に振られているのが当を得ているし、これはペータースのミニチュアスコア版やデュランの2台ピアノ版、春秋社の2台ピアノ版でもこうなっている(春秋社の練習記号は1, 2, 3 ではなく A, B, C で振られていて、145小節めに練習記号 I がある)。
フォーレ「ピアノとオーケストラのための幻想曲」第145小節
このテーマを D として以下引用する。この D 部分はメロディーは美しいというよりは屈折した趣がある。おまけに右手はヘミオラを意識しているのに左手が3拍子を明確に表している点から、リズムも屈折しているといえる。この屈折は、他のテーマと比較すると明確になる。B のテーマでは2回のオクターブ上昇を要素として持っているが、このDのテーマではオクターブ上昇はなく、同じ2回でもH から A への短7度が1回と Dis から C への減七度が1回に抑えられている。このテーマが展開されることで、上昇の程度は変化するが、ともかくも提示される形を示した。
なお、上記はピアノだけを示した。オーケストラは第2ヴァイオリンだけが、伸ばしと付点音符からなる H 音のみのオスティナートを奏でている。このオスティナートはかなり執拗で(だいたいオスティナートと名がつくものは執拗であることが必要条件だ)、第2ヴァイオリンも大変だろう。このテーマの展開のあいだ、オーケストラは第2ヴァイオリンのオスティナートに、チェロバスのピチカートが加わり、さらに(4番ホルン!+ヴィオラ)の底鳴りが響き渡ったところでテーマDの展開とオスティナートはひとまとまりである。