フォーレの「ピアノとオーケストラのための幻想曲」を調べる(0)2020/06/07 23:00:00

フォーレには「ピアノとオーケストラのための幻想曲ト長調 Op.111」という協奏曲的作品があるが、広く知られているとはいいがたい。去年、この作品の2台ピアノ版を聴きに行ったときの感想をブログで述べたが、改めてじっくりと調べてみたい。
この作品は、第一次世界大戦と合わせて語られることが多い。第一次世界大戦が始まったのは 1914 年で、同年にフランスは参戦している。終結したのは 1918 年のことである。フォーレの作品に戻すと、1914 年から 1919 年の作品には、この危機的な時代を表す兆候が表れているという識者の指摘がある。とくにこの兆候が顕著なのが、ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番ホ短調 Op.108(特に第1楽章)、チェロとピアノのためのソナタ第1番ニ短調 Op.109(特に第1楽章)、そしてこの幻想曲(特に中間部)である。これらの3曲は、一般的な音楽愛好家のイメージである、サロンの音楽家フォーレという思い込みを打ち破る傑作である。

この曲はト長調という、あまりフォーレが採用しない調性を用いている。この調性が確たる意味を持つとは思えないが、おそらく管弦楽の負担が少なくなるように考えて調号にシャープやフラットがそれほど出てこない調性を選んだのだろう、という推測はなりたつ。過去にフォーレは同じ編成である「ピアノとオーケストラのためのバラード嬰へ長調 Op.19」を作った。この作品の原形はピアノ独奏曲であり、それであれば嬰へ長調というピアニストの指にやさしい曲をそのままオーケストラ伴奏にも生かしたのだろう。このバラードでは、終始オーケストラは陰に回っている。戻って幻想曲では、オーケストラはピアノと対等である。

次からは実際に楽譜を見ながら解説したい。