花田清輝の「歌いりイソップ」を読む2020/09/22 14:52:26

第三書館から出版された、「ザ・清輝」という、大部な本がある。花田清輝の主だった作品を収めてある。それを買った理由はあまりよく覚えていない。

さて、このブログには音楽室という名前がある。この本に収められた音楽論があればいいのだが、それらしい論が見つからない。そのかわりに、「乱世をいかに生きるか」に収められた「歌いりイソツプ」の「二、秘密」と題された話を読んでみた。

この第三書館版の活字上は促音便のツは大文字で、「歌いりイソップ」ではない。以下引用するが、原文では撥音便や拗音便を大きな「つ」「や」「ゆ」「よ」で使っているところ、引用文は小さな「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」で表示する。さて、この「秘密」という話は次のように始まる。

ある国に驢馬の耳をもった王さまがいた。 王さまは、いつも大きなずきんをかぶっていたので、 かれの耳の秘密を知っているものは、王さま附きの理髪師だけだった。 理髪師というやつは、 「セヴィラの理髪師」の例によってもあきらかなように、 概して口にしまりがない。

「セヴィラの理髪師」はロッシーニの歌劇であるが、私は聴いたことがない。いつかは聴けるだろうか。そして、王さまは理髪師に秘密をばらしたら死刑だぞ、と脅していた。さらにそれだけでは安心できず、王様はこんなふるまいに及ぶ。

法律をつくり、耳に関して一言でもしゃべる者は、 すべて破壊活動を行う者とみとめ、 一人残らず逮捕してしまうことにした。 国民は、なんのことやらわけがわからなかったが、 とにかく、ながいものにはまかれろ、というわけで、 従順にその法律を受けいれることにした。 その結果おこったいちばん滑稽な出来事は、 女主人公の名前がミミだというので、 歌劇「ラ・ポエーム」が上演禁止になったことだ。

「ながいものにはまかれろ」ということばは「寄らば大樹の陰」と並んで私の好きなことばである。この滑稽な出来事というのはどこか現代を連想させる。悪事で逮捕された俳優が出演している画面を時間をかけて削除していることを知ると、そのような時間をかけることがもったいないと感じる。

さて理髪師は、真相をバクロしたくなったがそこをこらえ、器械に向かって「王さまの耳は驢馬の耳!」と繰り返し、録音したレコードを戸棚の奥深くにしまい込んだ。王さまの秘密は保たれていたが、この理髪師は死んでしまう。告別式が故人の自宅で盛大に行われた。以下は全文引用する。

人びとは、べエトーヴェンの「葬送行進曲」 のレコードに耳をすましながら、 温厚な故人の風貌を思いうかべていた。 すると突然、故人の肉声が、息もつかずに、 とんでもないことをしゃべりはじめた。

 破壊活動防止には
 むろん、わたしも大養成
 しかし、つらつら思うのに
 火焔びんより原爆を
 どうして防ぐかが問題だ
 ながろうべきか
 死すべきか
 ああ! それこそが問題だ!

 教訓 ピクピクするだけ損である。

 どのようにこの話を解釈すべきなのだろうか。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://marinkyo.asablo.jp/blog/2020/09/22/9298152/tb